毎月10日はラ・テール洋菓子店のサンクス・ケーキの日
ラ・テール洋菓子店の開店記念日は1998年5月。その初心を忘れないために、毎月10日をお客様感謝の日(サンクス・デー)として、その日にしか出ない「サンクスケーキ」を毎月一品開発し、ご予約のお客さまにだけにお渡ししています。この日だけのケーキですが、素材の産地を厳選し、通常のお菓子と同じように開発、準備をしてでき上がったものをご用意。数量も限定させていただいています。 サンクス・ケーキには毎年、年間を通じてのテーマがあります。たとえば、「ロールケーキ」の年もありましたし、「チョコレート」「シュー生地」がテーマの年もありました。
2021年のサンクス・デーのケーキのテーマは、ラ・テールの職人たちが、「今までに出会ったおいしいお菓子」。
担当者の人生観を変えるようなお菓子との出会いとストーリーを、今の自分が表現し、一期一会のケーキに仕立てます。
菓子職人としてのキッカケとなった思い出のケーキ
今回の開発担当は、菓子職人歴40年を超えるベテランパティシエである永島。
ドイツ菓子やスイス菓子を基本とする洋菓子店で職人を始めてから7~8年経った頃、ウィーン菓子の本を手に取り、ザッハトルテを知りました。その後ウィーン菓子を扱う洋菓子店で働くようになって4カ月、本場のザッハトルテをどうしても知りたくなり、単身オーストリア・ウィーンへ飛び立ちました。
200年以上もの歴史のあるザッハトルテ。まずは起源と言われるホテルザッハとデメルのザッハを食べ比べ、「実際は、こんなにも濃厚なケーキだったのか」と改めて知り、ウィーンの美しさと雰囲気を味わいました。
見た目はシンプルですが、食べておいしいケーキ。素材の味わいもストレートにわかりやすく、そのおいしさに魅了され、そして、その出来事がキッカケとなって、菓子職人として生きていく覚悟を決めました。
ザッハトルテとは...
ザッハトルテは、ウィーン王室御用達だった「デメル」のザッハトと「ホテル・ザッハ」のものが有名ですが、オリジナルは、ホテル・ザッハのものと言われています。
もともとは、オーストリア宰相クラメンス・メッケルニヒに仕えた料理人だったフランツ・ザッハがウィーン会議のためにつくったのが始まり。彼はそれで財を成し、息子エドワードが1876年にホテル・ザッハを開業するも、その息子がホテルを財政難に。そこで、救いの手を差しのべたのがデメルでした。デメルもザッハトルテを売ることで資金援助をしていたのですが、ホテル・ザッハ側は、デメルがザッハトルテの名称を用いることが気に入らず、ついに裁判に発展。結果、ホテル・ザッハは「オリジナルのザッハトルテ」と呼び、デメルは「デメルのザッハトルテ」と呼び、今に至っています。
この2つのザッハトルテの違いは、アプリコットジャムが表面にのみ塗られているのが「デメルのザッハトルテ」、チョコレートスポンジにジャムが挟んであるのが「オリジナルザッハトルテ」です。
今回のケーキは、本来のザッハトルテのトルテタイプ(丸いホール状)のものとは少しを姿を変えて、切り分けやすいトヨ型タイプで仕立てました。
栃木県の磯さんの苺「スカイべリー」とチョコレートの味わい
1月のサンクス・ケーキでは、生地の回りに、栃木県の苺農家・磯さんのスカイベリーのジャムを、生地の間には、濃厚なチョコレート生地とのバランスを考え、酸味のある国産・木苺のジャムを使いました。
生地にはカカオ分58%のオーガニックチョコレートを、そして回りのザッハーグラズール(チョコレートの糖衣)にはカカオ分80%のオーガニックチョコレートを使っています。ザッハーグラズールは、溶けた砂糖の再結晶化の性質を利用した製法でシャリ感をつくり出します。砂糖とチョコレートを煮詰めて、かけた瞬間に程よく結晶化する、まさにこのタイミングの見極めこそ熟練の技と言えます。
軽めの無糖の生クリームをたっぷり絞り仕上げました。シャリッとした食感の後には濃厚なチョコレートの香りとベリーの甘みと酸味、そして生クリームがまろやかに包み込む...そんな味わいをお楽しみいただけます。
(開発担当:永島 定男)
菓子職人として生きていく覚悟を決めるキッカケとなった「ザッハトルテ」。
熟練の職人技を駆使して、伝統的な製法でおつくりし、ラ・テールらしく旬の苺「スカイベリー」を使ってアレンジしました。